森林所有者の方へ
時代の変化と薄れゆく森林を所有することの意味
林業は、国土保全以外にも適切な管理を実施していれば持続可能な資源として活用可能な木材生産の場としての目的も持ちます。それに加えて豊かな水資源を育み、二酸化炭素を吸収し、土砂流出防止等の環境を保全する側面を持ち、地域雇用の場ともなり、上手に循環させていくことができれば地域社会の活性や環境もよくすることができる優れた産業です。
しかしながら、時が流れ、経済が発展していくにつれ、地域経済から広域経済へ、都市集中型の経済構造へ変化し、加えて輸入木材の台頭や生活様式の変化による木材需要の低下から材木価格が大幅に下落しています。本来であれば伐期を迎えた木を収穫して新植をするという林業の流れが不採算性から難しくなり、森林所有者自身が山仕事で生計を立てることが困難な時代となりました。そこで、森林整備は所有者自身で行うのではなく業者へ委託する時代へとシフトしていきますが、委託をしてまで森林整備を行う必要性、投資の価値に見合うか、今後の不透明さ等から次第に森林所有者は森林を所有すること自体に価値を見出せなくなり、固定資産税や相続税を考慮すると森林は資産から負債へと変化し、山との距離が一層広がっています。先祖が高い気概と崇高さから植林した山林を受け継いだ私たちの世代は、収益がないまま納税を続けて所有し続けています。所有している意味とは何なのでしょうか。
山で何か起きているのか
では人が入らなくなった山で今何が起きているのか。長年手入れがなされず放置された森林は林床に光が届かず、下層植生も乏しく、晴れた日でも薄暗く鬱蒼としています。間伐されずに残された木々は細いままなかなか成長できず互いに競争して枯れる木や倒れる木が発生し、立木の枝張りや根張りは弱まり、山の治水能力や土砂流出防止能力は低下しています。昨今、森林減少による地球規模での環境変化が問題になり、気候も実感できるほど変化しており異常気象が頻発し各地で山林崩壊が見られることからも、放置森林の崩壊危険性は増していると言えます。
また、山林を相続したものの、どこに山があって何がどのくらい植林されているのか把握されていない場合も多く、森林所有者が県外にいる不存在地主も増え、森林の境界不明確化も加速しています。境界が不明確なまま施業を実施した結果、誤伐採につながる場合や、他県では所有者の目が届かないことから悪質な業者が故意に盗伐を行う事例も発生しています。
地域の林業を担う者として思うこと
山林を手放せるならば手放したい、買ってくれる人はいないか、タダでもいいからもらって欲しいといった声が多く聞かれるようになってきました。日本の森林面積の8割は個人の所有者が保有しています。その方々が山林を所有してくれているから先進国の中でも高い森林率を維持し、国土を保全しています。言い換えれば個人の森林所有者が日本の水を守り、土砂流入を防止し、二酸化炭素を吸収し環境に寄与しています。本来ならば納税する側ではなく、環境を維持している観点から非課税でもいいくらいなのではないでしょうか。
現在森林を所有されている方はバトンを受け継いだ方々であり、私も山林所有者としてバトンを継いだ一人です。そのため山林所有者の方の目線に立ち、お客様から委託を受けた山林に対しても先人の思いを継承するものとして仕事をしています。
私たちは先人の思いを胸に、山を預かり、丁寧に手入れをし、財産価値を高めることを仕事と私たち事業体が今伐採する木々は先人の手により植林され、後継者の方が受け継いでくれた森林であることを忘れてはいけないのです。
、山林自体が荒れていることも要因のひとつです人の手が一切加えられていない天然林を除き、人の手により作られた人工林はもとより、雑木林であっても一度手をつけた以上は人による手入れが必要なのです。